あっ 忘れた!
園庭では泥んこ遊びが最高潮。お日様に照らされた泥が、実に魅力的な鈍い輝きを放ちます。一年前には服が汚れただけでベソをかいていた子が、泥水にオシリをつけて、まるで大地に根が張ったよう。バケツの中にはトロトロのチョコレートみたいな泥水。触ると気持ちがいいんですよ。でも、今はこのカメラを守らないと。園長先生がビミョーにみんなと距離を置いているのは、大人の事情だからね。
「みんな~、切符もってるか~!」「はーい!」すみれ組といっしょに電車に乗って西山公園に行くのです。今どきの子は電車に乗った経験がほとんどありません。改札を通って、意気揚々と電車のステップを上がります。発車のベルが鳴って、出発進行!「わぁ!動いた!」大はしゃぎ。タタン、タタン…心地よくリズムを刻む車輪の音と車体の揺れ。誰が教えたわけでもなく、クツを脱いで窓に願をくっつけ、景色を眺めるスタイルに。鉄橋です!「お空、飛んでるみたいや!」電車の橋には柵がありません。「サンドーム!ここ行ったことある!」「次の次、西山公園駅で降りるんやで」「はーい」
ん?ここで私、背中がスースーすることに気づきました。リュックが、無い…子どもたちが切符を買って、ベンチに置いて…。あーっ!そのまま!「お弁当、駅に置いてきた!」「エーーーッ!園長先生、お弁当ないの?」「どーする?」みんな真顔で心配してくれています。「どうしました?」園児の安全のために電車に乗り込んでいた駅員さんです。「今なら次の電車で送れますよ」へ?「運転士に持たせますから…」すぐに越前武生駅に連絡がとれて、一本後の電車で西山公園駅にお弁当を届けてくれることになりました。
「じゃ、園長先生~、動物園にきてね~!バイバーイ!」お弁当待ちの私、西山公園駅で一旦みんなとお別れです。ひとり、誰も居ない駅のベンチに座って…あーあ、園長がお弁当忘れるなんて、ありえないし…「えんそくバス」という絵本では、遠足でお弁当を忘れた園長先生がみんなにおかずを分けてもらいます。これは笑い話です。「忘れ物をしないように…」って言っていた本人がこれじゃ…もうトシかな?ちょっとクヨクヨしていたら、コトンコトン~電車がやってきました。運転士さんが小窓から「先生!はい、これ!」「すみませーん」機転を利かせてお弁当を電車に乗せてくれた福井鉄道のみなさん、ありがとうございました。
動物園では飼育員さんからレッサーパンダのエサや、いろいろな鳥の卵のお話をうかがいました。リンゴやオレンジ、サツマイモ…おいしそうに食べるレッサーパンダの姿に「おなかすいた…」「お弁当まだぁ?」おいおい、まだ来たばっかりじゃないの。鳥さんやおサルさんも見てこようよ。
ミミキジは耳のような白い毛が頬から頭にかけて、シューッと伸びています。「この鳥、かっこいいな!」ほら、絵本で見たことあるやろ、桃太郎といっしょに鬼と戦ったキジ。「あっ、見たことある」「強そうやな…」でも、背中の毛が抜けて痛々しい感じ。「鬼にやられたんかな…」と女の子。そうかもしれんなぁ。
よし、展望台まで競争だ!男の子たちを挑発して一気に駆け上がったものの、ゴール付近で追い越され、いちば~ん!にば~ん!えんちょう先生は三番な!くやし~。子どもに負けたくない性分は昔から変わりません。展望台からは保育園の近くの工場の煙突、ご本山の屋根まで見えます。涼しい風が吹いて、汗がスーッと引きました。お腹ペコペコだね。お弁当は大好きなオムライス!妻に感謝しつつ、おいしくいただきました。午後は福井市内で会議がありました。もう、眠いのなんのって…。やっぱり年齢はごまかせません。
すみれ組はすみれ組、ひまわり組はひまわり組…。4月には借りてきた猫みたいだった子たちが、今はすっかりそのクラスの子らしくなりました。夏が近づいて、いよいよ、子どものエネルギーがあふれる季節です。「園長先生、園庭にムカデがいます!」「ハチが出ました~」活発になるのは、子どもたちだけではありません。