ホンキ球
わが子が小さいとき、お子様ランチを注文しました。かなり残したので私が食べたら、冷凍ハンバーグとウインナーにフニャフニャパスタ。安いおもちゃで化粧したランチです。子どもの味覚に「子どもだまし」は通用しないのですね。美味しいお子様ランチを出しているお店は少ないけれど、そこは本当にいいお店だということを知りました。メニューには大抵、「お子様ランチのご注文は、お子様に限らせていただきます」って書いてありますよ。
シューッ!雪球が音を立ててかすめていきます。
父の投げる雪球は重くて、硬くて、破壊力がありました。雪を積み上げて作った壁にも、パーン!と当たって、崩されていきます。「壁が崩れる!直して!」身をかがめて後方支援している妹に壁を補修させながら、私と弟は身を乗り出して、必死に反撃。父が投げる合間を見計らって雪球を投げます。シュッ!球が頭上を通過。今!と、壁から顔を出したら、バッ!視界が真っ白に。顔を直撃です。父は私が顔を出すタイミングを読んでいたのです。ジンジンしびれて、痛いのと悔しいのと…涙があふれます。やられた。隣では弟が健気に戦っています。私は雪球を握り、戦いに復帰しました。40年前…身震いするほど楽しかった、冬の思い出です。
お子様ランチのように、世の中、子どもにはこの程度でいい…って思っているフシがあります。ところが、日々刻々を力いっぱい生きている子どもには、オトナがホンキじゃないのはよくわかるのです。オトナが、鬼ごっこは十歩で追いかけるのをやめるのを、かくれんぼはわざと見つかることを、子どもたちは経験で知っています。だからそ、私、鬼ごっこは負けません。かくれんぼは見つかりません。父の影響もあります。ずっと、ホンキでやってきました。その代わり、大人の事情で遊べないときは、きっちり断ることも、してきました。積み重ねて、子どもが大人を信頼していくことって、基本だと思うのです。
年末年始の休み明け、大雪で真っ白な園庭に園児たちが飛び出していきした。すみれ組が雪合戦をはじめました。おっ!先生、結構、いい球を投げます。よーし!私も…
私、基本的に雪合戦に手袋はしません。雪球がキチンと作れないし、コントロールもつけにくいからです。ただ、手が冷たくなって、何十球も続けて雪球が製造できないという問題を抱えていました。が、今年は違いますよ。妻が台所で使っている薄い手袋。手にピッチリと密着するヤツ。あれを使えば素手の感覚と変わらず、しかも冷たさも抑えられる。連続攻撃が可能になることを、自宅で実験済みです。
「新兵器」の手袋を装着、まずは挨拶がわり、玄関前からアスレチックの上に陣取る子たちに、トリャー!放物線を描いて、パーン!手すりに当たって砕けました。信じられない長距離からのコウゲキに「おおっ!」みんな、びっくりしています。どうだ!以後は徐々に近づいて雪球を浴びつつ、反撃。雪の破片が当たっただけでメソメソしてる!そこのキミ!ほら、がんばれ!「愛情をこめて」雪球をお見舞いします。ほら、立ち直って接近戦を挑んできた!そうこなくちゃ。私のメガネは雪まみれ…。
結局、あれから本格的な雪が降らないまま、もうすぐ立春。雪もすっかり消えてしまいました。「雪、もうひと降りほしいね…」って言ったら、「もう、これでいいわ。ラクやで」って言われます。雪と友達になれなくなったときが、オトナになったとき、なのかも知れませんね。