咲かせたい花二つ
町内の仲間と一緒に、日帰りで白山に登りました。メンバーには5歳の保育園児(すみれ組の男の子)もいます。彼を基準にして、いけるところまで行って帰るつもりでした。
登山開始は6時半、順調なペースで1時間ほど登って休憩中に、「だいじょうぶ?」とお父さんが気遣ってやさしい声をかけました。とたんに彼は甘えた表情になり、抱っこされて、後ろに下がりかけます。日頃の彼を知っている私は「さっ、いこうっ!」先頭を歩く息子の次に押し出しました。それから、状況は一変します。二人の子どもはタッタ、タッタと息一つ乱すことなく軽快に登り、「おそいよ、もう!」と、いつも大人たちのはるか先で腰掛けて余裕の表情。次第に遠く引き離されて、ついにはスルメイカのようにヒラヒラ歩くお父さん(ごめんね)を尻目に、標高2702メートルの御前峰に登頂、往復14キロを踏破したのです。
白山の雄大な風景や可憐な高山植物もすばらしかったのですが、小さな身体で悠然と初秋の白山を楽しんだ彼の気力と体力に感心しました。実のところ、私もいっぱいいっぱい、翌日の半日奉仕で平気な顔をしたかったのですが、歩き方はまるで割り箸。滑稽だったことでしょう。
一週間後には筋肉痛も無事に癒えて、万全の体調で運動会を迎えることができました。かわいらしい赤ちゃんのハイハイ、学童さんとのドッジボール本気対決、お母さんたちの気合がぶつかった綱引き、すみれ組のリレー…。最高のお天気にも恵まれ、実に楽しい一日でしたね。
かけっこで見事に1位になった子、残念無念、転んでしまった子、みんなよくがんばりました。かわいい!楽しい!がモットーの保育園の運動会ですが、子どもには発達につれて、もう一つ、「がんばってチャレンジする」要素が加わります。だれよりも高く!だれよりも速く!だれよりも遠く!そんな子どもの気持ちの変化をお父さんやお母さんが受け止めて、見守り、応援していただけたら、それだけで運動会の目的は達成されたみたいなものです。
長男のときも次男のときも、運動会の竹馬がきっかけでした。すみれ組になってもマイペースだったのに、急に友だちを意識して、目の色をかえて練習しだしたのです。10歩…50歩…立ち止まるたび、得意そうにふりかえる表情に、喜びがこみ上げてきました。竹馬は何歩でも良かったんです。それより、子どもたちの変化が嬉しかったのです。
子どもに習い事をさせている多くの親は、オリンピック選手やピアニストや通訳に…までとは考えていません。そこそこできるように、その技能を活かして人生をより充実させてほしい、そんなところではありませんか。でも、がんばって練習して、壁にぶつかって、悩んで、泣いて、笑って…できない、できた…を繰り返す子どもたちを見ていると、まさにその山あり谷ありの道のりを経験させるために、月謝を払っているのか…と考えることがあります。
子どもの「能力」が向上し、開花していくことは、親のこの上ない喜びです。花は実に鮮やかで魅力的です。期待どおり、親に優越感、満足感を与えてくれます。水や肥料をやればやるだけ育ちそうです。確実に子どもの将来のチャンスを増やし、選択の幅を広げるでしょう。しかし、この花は、いつか必ずしぼみます。さらに、人に幸せを約束してくれるものではありません。
もう一つ、人には大切な花があります。それは「心」。育っているのか、育ってないのか、見えにくく、地味ですが、咲いたら人をひきつけ、幸せを呼び込んでくれます。年齢を重ねるごとに美しさを増しこそすれ、決してしぼみません。子どものうちにしか育たない花でもあります。
咲かせたい二つの花。親として、両方とも育っているだろうか、それだけは、気にしています。