有罪

「ウソを言ったってだめですからね…」

銀縁めがねの奥からのぞく、さげすんだような眼。
国高のユース(スーパー)の前で「止まれ」の旗を持った警官に脇道に誘導されました。横断歩道に人はいなかったし、スピードもゆっくりだったし、呼ばれた理由がわかりません。

車を止めると、警官がニヤニヤしながら寄ってきます。「なんですか?」こっちもドアを開けて出ようとしたとき、「ベルトしてなあかんね」「え?ベルトしてましたよ」「手で持ってるだけやがね」まさに、解除のボタンを押したところでした。シマッタ。「福井からずっとしてました」「いえ、見てた者がいるんです」「写真撮りましたか」「いいえ、見ていましたから」「じゃその人と話させてください」運転暦18年、運転するときは必ずベルトをしてきました。こんな扱いを受けるなんて不当だ…状況がわかるにつれて、だんだん腹が立ってきました。「ワゴンの車高で小柄な私がベルトをしていないのが本当に現認できたのですか、30キロぐらいで走ってましたよ」「なにを言ってもベルトしてないものは仕方がないですよ」「いえ絶対にしてました。私も保育園の園長です。やった違反ならいくらでも認めますけど、やってないものを認めるわけにはいきません」と、押し問答がつづきました。

ついに我慢できなくなって、言いました。「私は絶対に認めません。もう連行してください。警察署でゆっくり話します!」「来てもらわなくてもいいです。もういいですから、そんなにいうなら、うそをつくなら、もういいです、あなたの名前もひかえていませんし、はい、行って下さい」と、そっぽを向いて次の「カモ」のほうに歩いていきました。

収まらないのは時間と気持ち無駄にした私です。夜、家でもひとしきりボヤキました。妻は県警に電話する、とまで言ってくれたのですが、余計に不愉快な思いをするのはわかっています。そのうち、気持ちも落ち着きました。

「冤罪」というのはこういう風に生まれるのでしょうね。警察は後戻りしない。認めれば自分の仕事上の失敗になりますから。とんだ災難でした。あの顔、一生、忘れません。みなさん、ユースの前で警官が笑顔で寄ってきても決してシートベルトをはずさないようにしましょうね。

布団に入ってから、眠れなくなりました。ある出来事を思い出したのです。一年ぐらい前、次男がトイレでトイレットペーパーをたくさん出して遊ぶことが再三あって、二度としないようにきつく言い、約束をしていました。ある日、家に帰るとトイレは水びたしでトイレットペーパーも全部ベチャベチャ。「りょーちゃん、来なさい!」「約束を破ったな」と、さんざん叱って、締めくくりに「ゴメンナサイっていいなさい!」でも、次男は泣きながら首を横に振りつづけるばかり。どんなにきつく言っても頑として謝りませんでした。「いつもと違って、なんだか頑固だったな…」そんな印象だけは残りました。

次の日、八ヶ月の三男がトイレを水びたしにして遊んでいるのを見つけました。「まさか…」それからは何度も。と、いうことは、あの「事件」も三男の仕業だった…?次男はあまり水は出さなかった…きっとそうだ。まあいい、そんなこともある。日々の忙しさもあり、「事件」も、忘れかけていました。

今回、自分が疑いを押し付けられて、あの日の記憶がよみがえったのです。私は大人で知識も意地もあるから、徹底的に反論したけど、ちっちゃな二歳(当時)の次男はどうだろう…。次男の寝顔を見つめていると、なんだか切なくなってきました。「りょうちゃんはやってない」と、どれだけ言いたかっただろう。でも怒ったパパは怖いもんな。言えないよな。いまさら謝っても遅いけれど、ごめんな、ごめん、ごめん…。  
親の権力、権威をふりかざして、最後に無理矢理に言わせた、震える小さな声「ごめん…」。耳の奥に残っています。

父親として、間違いなく私は「有罪」でした。今は、あの警官、いや、”おまわりさん”に感謝しています。

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