ゆっくーり、読んで!

「みなさん、さよーなら!」

帰りの会が終わるやいなや、数人の子が寄ってきます。私と遊ぶのが日課みたいになっているのです。「きのぼり!」「かたぐるま!」「ジャンプ!」「だんごむし!」と並んでいる子のオーダーはさまざま。しかも、すみれ組の子はますます重い。ひと汗かくことになります。さらに「コチョコチョありで」「コチョコチョなしで」「あかちゃん(だっこ)ありで」「なしで」まるでラーメンのトッピングみたい。

「これ読んで」絵本を持った子の順番です。「三びきのやぎのがらがらどん」。定番のノルウェーの昔話です。小さいヤギ、中ぐらいのヤギ、大きいヤギの三匹が草を食べに山にいくのですが、途中、谷を渡る吊り橋で恐ろしいトロル(おばけ)が待っています。食べてやる、というトロルに小さいヤギは「後ろから、もっと大きいヤギが来ます」といって無事通過。中ぐらいヤギも「ボクよりずっと大きいヤギがきます」とやり過ごし、ついに三匹め、大きな強いヤギはトロルを見事に粉砕して、三匹はお山で丸々と太りました。というお話。

「もう一回読んで」「もう一回…」ほかの子もまわりを囲んで、一回読み終えるごとに交替で私の膝に。「あたし小さいヤギ」「ボクは大い強いヤギ」と、自分がそのヤギさんになった気持ちでドキドキしながら聞いています。5回も続けた頃からだんだん他の遊びに抜けていって、ちゅうりっぷ組(3歳児)の男の子ひとりが残りました。「ねぇねぇ、こっちきて」と私を隅っこに誘い「ここ座って」膝にはいりました。「また読んで」え、また?って、思わず読むスピードが早くなったかもしれません。

「ねぇねぇねぇ、ゆっく―――――り、読んで!」はいはい。ゆっく~りね、その幸せそうな表情、ハッとしました。お話の内容より、私の膝にはいっているこの時を楽しんでいるのです。活発に一日を過ごしたこの子ですが、今はここが心地よいのです。たぶん帰ってもお家の人はお料理、晩ごはん、お風呂、お洗濯、明日の用意で、あっという間に寝る時間。なかなか、ほっこりできないかもしれない。園児の心のメッセージを感じ取るアンテナ、大事大事。

お天気の日も増えてきました。光がキラキラしています。お子さんの手をひいて登園する皆さん、寒い寒いといいつつも、心なしか足取りは軽やかです。

毎年のことながら、生活発表会が終わると卒園式まで、駆け足で時が過ぎていく気がします。赤ちゃんのときから通っている子は園生活が1500日をこえます。小学校六年間の約1200日より多いのです。それも残り20日ほど。これまで蓄えてきた愛情のエネルギーは、これからもきっと、力になってくれるはずです。